ばいばい、そう言って彼は私の前から姿を消した。
旅行だか語学研修だか理由は忘れてしまったしそもそも聞く気もなかったから、もうそんなことはどうでもいいのだけれど、ただ少しだけ、気になることがある。それは、いつ帰ってくるのだとか出かけた先で彼女をみつけてしまわないかだとかおよそくだらないことばかりで、思わず頭を抱えたくなる。けれど、それがどうでもいいことかと問われれば、決してそんなことはない。いつのまに彼は自分を侵してたのだろう、なんだか笑えてくる。
そっと空に手を伸ばす。そういえば彼は青がだいすきだったと、頭の片隅で思い返してみたりもする。いっぱいいっぱいになるまでぐう、と手を伸ばして、まるで彼を掴むように空に向かってポーズをとった。掴むことなどできないとわかりきっているというのに。けれど、繋がっているはずの空にひとかけらの願いを託したっていいと思うのだ。
そんなことをしていると、一台の飛行機が自分の真上を通り、過ぎ去っていった。その飛行機に彼が乗っていないことはわかっていたけれど、どうしても追いかけたくなって、必死で街路を駆け抜けた。ぜえぜえ、切れる息と自分の体力とたたかいながらそれを追う、しかしがんばった甲斐はなく、もう飛行機は点にしか見えない。悔しくなったのか寂しくなったのか、どちらともつかない感情で胸がいっぱいになって、思わず叫んだ。
「ばっかやろーー!」
未だ切れたままの息を恨めしく思いながら、飛行機に思い切り手を振ってやった。恥ずかしいとか情けないとか、後になればはげしく後悔しそうだけれど、それでもよかった。だって今、こんなにもすがすがしい。頭を抱えていたころの自分がうそみたいだ。
ひとつ息をはいて、くるりと踵をかえす。気がつけば、闇はもうそこまできている。さあ、そろそろ帰ろうか。重くなった足を叱咤し、駆けた路をもう一度走り抜けた。
グッバイ・ブルー
さよなら、またね
20071213